2007年 05月 29日
足音がいつも聞こえていた。泥道、草の上、凍った道、砂漠の中、硬い音、柔らかい音、ざくざく、さらさら。登場人物たちは、自分たちが何処へ向かって歩いているのか誰もよくわかっていない。でも歩くしかないから歩いている。 デメステルは1人で農場を営んでいる。バルブは近所に住む幼なじみ。いつもお互いを気にしているし、時々セックスをしている。多分恋人同志だが、言葉にはしていない。デメステルは人に聞かれて「ただの友達」とつい答えてしまう。その言葉を聞いたバルブは、あてつけのようにバーにいた男ブロンデルと関係を持つ。デメステルは心中穏やかではないが、それでも言葉は出てこない。 田舎の生活は単調。何があるわけでもない日々を脱出するために、何か別の道が拓けるような気がして、若者たちは入隊していく。残されたバルブは抜け殻同然となり、心が少しずつ壊れていき、精神病院へ入院させられる。 戦場は男たちが考えていたような新しい世界ではなかった。行軍中敵方の陣地内で孤立した彼等の隊は、1人また1人と殺されていく。最後に残ったデメステルとブロンデルは逃走を計るが、ブロンデルが撃たれる。「置いていかないでくれ」と彼は叫ぶがデメステルは独り逃げるしかなかった。 帰郷。デメステルとバルブは再会する。二人は発狂しそうな世界を経てやっと、お互いを「愛している」と言うことができた。嗚咽しながら愛していると言い続けるデメステルを、バルブは静かに見つめているのだった。 何か劇的な変化が起こったとか、新しい未来が待っているとか、光が見えてくるとかそういうものはわからない。あるのかもしれないし無いのかもしれない。バルブをマグダラのマリアに喩えて、デメステルはバルブに赦されることによって救われた癒された、という見方もあるが、私にとって1番印象に残ったのは、フランドルの風景と足音だった。人はそこで生きていく、何もかもないまぜにして。 というシリアスな映画を見る前に「ボラット」なんてのを見ていたものだから、とにもかくにも「フランドル」の静謐な映像世界に圧倒された。音楽は無し。戦地で兵士がビールを飲む時の『とくとくとく』という音が響いてくる。こういう音を大切にする映画はいい。
by atsumi-6FU
| 2007-05-29 15:23
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