2006年 12月 27日
1920年アイルランド南部の町コーク。若者たちがハーリングの試合に熱中している。デミアン(キリアン・マーフィー)はこれを最後に友人たちと別れ、医者としてロンドンで研修を受けることが決まっていた。楽しいゲームの後に待っていたのは、『ブラック・アンド・タンズ』の尋問。英語名をがんとして名乗らなかったミホールは殺されてしまう。このままではダメだ、立ち上がらなくては、と意志を固める友人や兄たちの横で、デミアンは確固とした態度を取れない。 ロンドンへ向かう列車に乗るその時、イングランド兵に抵抗して譲らない運転士や車掌を目の当たりにしたデミアンは、コークに残り、アイルランド独立運動に参加することを決意する。 ニール・ジョーダンの「マイケル・コリンズ」は『勇士コリンズの活劇譚』と言えなくもなく、彼の的確な戦術によって相手組織がやっつけられていくその様が、痛快にも感じられました。もちろんアイルランド独立紛争の歴史的な描写もありますが、賛否両論あるコリンズ(「麦の穂」の中では『裏切り者』呼ばわりされています)をたたえる物語になってしまっている面もあると思います。それとは違って今回の作品は、母国の窮状を救い、未来の子供たちが新しい人生を切り開いていけるよう道付けをしようと、ごく普通の青年たちが心身を砕いていった様が痛切に伝わってきます。都会のダブリンではなく、一地方のコークで、特別に訓練を受けたわけでも、潤沢な兵器を持っているわけでもない青年たちが、明日を信じて戦う。彼等と同じ志を持った若者たちがアイルランド全土で、同じように戦い、そして散っていったのです。 デミアンは鋤や鍬ではなく、ライフルやピストルではなく、ペンやメスを持つのが仕事でした。だから、ではないけれど、彼が銃を構えたり、銃を下げて歩いたりする姿はどこかぎこちない。本当は銃など持ちたくないという体の拒否反応が、表に出ないようにこらえているような。話し方も張りつめていました。本当は内向的で無口な青年が必死に語っている、自分たちの行いが明日につながるのだと無理矢理にでも信じて、自分を納得させるためにも彼は語らなくてはならない。キリアン・マーフィー、渾身の演技です。 ブラック・アンド・タンズの兵隊たちも、哀しいといえば哀しい。多分下層階級で、仕事もなく、何かにあたらなければ生きていけないような彼等を支配者階級は利用して、ガス抜き的にアイルランドに派遣した。当然のように彼等はアイルランド人を痛めつけて憂さを晴らします。 ケン・ローチは真摯だけれど残酷。嘘をついてくれない。でも嘘で誤摩化せるような現実ではないのです、あの後数十年に渡ってアイルランドは外でも中でも闘い続ける。大勢の命が奪われ続ける。 私はラグビーをよく見ます。フットボールでは、イングランドのプロ・リーグのレベルが突出して高くなっていますが、ラグビーはそんなことは全く無く、特に今はイングランド代表がかなり低調なこともあって、アイルランドやウェールズ、スコットランドの各代表がそれぞれ輝いています。日本人にとっては、「なぜ英連邦代表とかにしないの?その方が強いだろうに」なのかもしれませんが、それはあり得ない。全く別の国なのです、スポーツを見ていればわかります。 最初は兄テディのほうが目を開いていたけれど、途中から彼は目をつぶってしまった。代わりにデミアンが、見ないつもりだった世界を凝視し、最後まで目をつぶらなかった。聖クリストファーのメダルを渡されたテディは、その後閉じた目を開くことができたでしょうか? デミアンの瞳はとても美しい青でした。 でも「マイケル・コリンズ」も好き。あれはリーアム・ニースンよりも、エイダン・クインを見る映画だ、と勝手に決めている私。
by atsumi-6FU
| 2006-12-27 10:01
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