2007年 06月 16日
デビッド・エアー監督、パトリック・マーバー脚色、フィリップ・グラス音楽。ケイト・ブランシェット、ジュディ・デンチ、ビル・ナイ。 クリス・メンゲスのカメラは残酷だ。何度もしつこくバーバラ(ジュディ・デンチ)の手の甲を大写しにする。血管が太くごつく浮き出た手。苦労を積んできた手。シーバ(ケイト・ブランシェット)の白くなめらかな手とバーバラの手が交互に映る様は残酷なコントラストとしか言いようが無い。 バーバラは孤独な独身女性。労働者階級の子供たちが通う中学校で歴史を教えている、学ぶ気などさらさらなく反応の無い子供たちに向かって、マルティン・ルターの95ヶ条を説いたとて何になるのか。家に帰れば猫のポーシャが待つだけ。最近人と触れ合ったのはいつのことだろう? ある日その学校へ新しい美術教師シーバが赴任してくる。独特なスタイルを持つ彼女はすぐさま教師たちを虜にした。バーバラは最初のうちは距離を置いていたが、生徒たちの喧嘩を止められないシーバを助けたため、二人の付き合いが始まる。やっと私の理解者が、私と相通ずるものを持つ者が現れたとバーバラは天にも昇らん幸せな気持ちになる。 このまま『いいお友達でいましょうね』が続けばよかったけれど、そうはいかない。シーバは男子生徒と性的関係を持ってしまう。なぜなのか自分にもよくわからない、優しく知的な夫(ビル・ナイ素敵!)と子供に囲まれた穏やかな生活に耐えられなくなったのか、ふと魔がさしたのか。少年とのセックスは明らかに罪、露見すればもちろん学校は解雇される、家庭も崩壊、社会的地位も何もかも失う。でもシーバは堕ちてしまった。「なんとかなると思った」というのは余りにも愚かで、失笑せざるを得ない。 シーバの生徒との関係を知ったバーバラは怒りと失望で身を震わせるが、即座に悟る。今回のことはチャンスだ、これで彼女を自分の支配下に置く事ができる。誰にも言わない代わりにあなたは私のもの、永遠の借りを作ったのよ。そしてバーバラとシーバの秘密の香りのする連帯関係が始まった。 少年とはすぐ別れる約束だったがシーバは守れないままでいた。何かとバーバラが顔を出してくることにシーバの家族が辟易し始める。なぜいつもあの女がいるんだ?と夫もイライラしている。バーバラの思いだけがどんどん強くなっていく、哀れなくらい。 この映画の見どころはジュディ・デンチだ。誰からも好かれず、ふれあいをもてない、でも人一倍寂しがりやで誰かとつながりたい、自分のことをわかってほしいと強く願い続けている。その願望がグロテスクな形でしか表現できない不器用な女性。あまりにも長い間そういう状態でいたから、自分がやや怪物めいてしまっていることがわからない哀れな女。 シーバに初めて食事に招待された時の、バーバラの上気した表情はまるで少女のようだった。友情で十分ではないか、でも彼女は友情以上でないと満足できない。 彼女の家は地下へ降りたところに玄関がある、その奥まった感じの家の中に罠を張ってずっと待っていたバーバラ。シーバは罠にかかるが、蜘蛛の糸を自分で切り、自分の足で歩いていくことを選ぶ。 先に見た友人が「まるで『サイコ』だ」とメールを寄越してきたが、さもありなんなラストがなんともいえない余韻を残す、味わい深い映画だった。 余談:シーバに恋したことを伝えてくれない?とバーバラに頼みにくる学校の同僚はスパーズのサポで「3-1で勝ったよ!デフォーが決めたんだ」(^^;)一方バーバラの父はチャールトンのサポだったそうで。やっぱり映画の中ではスパーズ強いな。「チャリングクロス街84番地」でもアンソニー・ホプキンスが見に行く試合はスパーズ戦だったもんな〜。
by atsumi-6FU
| 2007-06-16 23:23
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