2007年 06月 04日
南フランスの田舎町。ニコラの一家は牧畜を営んでいるが、ニコラ自身はまだ遊びたい、別の世界が見たいと、ややふらふら生活。デートから帰った夜、牛の出産に立ち会いなんとなく感動はしたが、農業一本の人生に入る決心はまだつかない。 しかし一家は厳しい状況に追い込まれていた。牛乳工場からの支払いが滞りがちで、トラクターの修理を断られ、種の仕入れも危うい。更に狂牛病のため牛は全て処分、破産に陥ってしまう。父親は自殺、祖父はショックで痴呆の症状が出始めてしまった。 母親は町に出てスーパーのパートを始める。ニコラは産直野菜や鶏をパリで売って儲けようと張り切るが、初日の帰途検問にひっかかり、保険に入っていなかった彼は3000フランの罰金を取られてしまう。すっかりやる気を無くすニコラ、どうして自分たちばかりがこんな目に遭うんだ。 養老院に入った祖父母を訪ねたニコラと妹パティは、祖父母の置かれている環境に耐えられず二人を連れて帰る。その帰り道、ニコラは決心する。山の家へ行こう、そこでもう一度やり直そう。自分たちには土をいじり、牛を飼い、乳を絞る生活が必要だ。 荒れていた家を少しずつ整え、トラクターや牛を揃えてニコラは再スタートを切る。元気の無かった祖父の目に輝きが戻り、祖母も微笑んでいる。 頼りなげなニコラだけど、彼の手はちゃんと覚えています。乳を絞り、チーズを作り、屋根葺きをやり、草を刈り。牛の出産も1人でやり遂げ、もう一人前の農夫です。最初は大丈夫かこいつ?!な顔だったけど、少しずつ締まってくる。迷いが全て消えたわけじゃないけど、祖父母や妹の落ち着き(でも妹はパリへ出ていくんだろうな、ただそれは山の家という帰る場所があるから出ていける、わけで)を実感して、自分の居場所はここだと肯定することができた。また、いっしょに歩いていきたい女性、マリアとの出会いも大きい。彼女に『歌うこと』、自然に体の中からわき上がってくる流れをそのまま声にのせる歌い方を教えてもらい、農作業の傍ら声を出してみる。全くの新しい体験が嬉しくて仕方がないニコラ。別世界の人間だった二人が、偶然の出会いから繋がりを作り上げていく様がとても素晴らしい。 祖父役のジャック・デュフィロがとてもいい。「太陽に挨拶をしなくては」自分の周囲に敬意をはらい、言葉をかける素朴な姿が『演技』という言葉を超えている。 そして南仏の自然と光がまぶしい映像、どこをとっても絵画のようだ。空気の匂いや温度も伝わってくるような画面だった。撮影は永田鉄男。 5年以上前に劇場で見て以来実はずっと忘れていたのですが、先週NHKBSで放映があり幸いにも見ることができました。近年公開された「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」はデュペイロン監督の作品だったのね、全然失念しておりました。借りて見たいと思います。
by atsumi-6FU
| 2007-06-04 20:38
| movies
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